「量が質になる」は半分ウソだと思う理由

元気玉と「努力神話」の話

一つのことをとにかくやり続ければ血肉となり骨となり、やがて質を生み出す。職人気質で、かっこいいですよね。

元気玉ってご存じですか?
一人ひとりの小さなエネルギーでも、一つに集約されて放たれれば、作中(連載時本編)最強の敵とされた魔人ブウでも倒してしまう主人公の切り札的な必殺技です。

たとえラディッツにディスられた農夫レベルの人でも、世界に70億人いるとしたら、単純に戦闘力350億になるってことで。そりゃ強いですよね。

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出典:『DRAGON BALL』(鳥山明/集英社)より引用

中二病的努力信仰

少年漫画から連想されるように、「量が質に変わる」という言葉を信じてゴリゴリやり始める人は、中二病思想があるのかもしれません。

王道漫画のストーリーあるあるの「最初は弱いけどやがて成長して最強になる」展開を彷彿とさせますし、コツコツ努力すればいつかは集大成になって大きな成果を上げられる気がしてこないでもないです。

ここまでエラそうに書いておいて、申し訳ありません。
冒頭の例を思いつく時点で、多分に漏れず私もそうでした。


「とにかくやればいい」は本当?

また突拍子もない話ですが、

おいらはシンガーソングライターになりてえ!

心の叫びが起こり、ギターを始めた男がいたとします。

手元にはギターしかなく、孤独な彼はドレミファの存在くらいは知ってるけど、譜面の読み方もコードも知らない。教えてくれる人もいない。

左手の指で弦を押さえて、右手でピックをはじく。
なんかわからないけど不協和音を鳴らして近所から苦情がくる。

この人、上達しそうでしょうか? 挫折しそうですよね。

得られたものは、弦を押さえつづけて少し強くなった握力と、指にできたタコくらいな気がします。


「量だけの努力」が空回りする理由

ここまで極端なケースはないと思いますが、時間(量)だけ投下しても、学びがなければ上達(質)にはつながらないということです。

ただし、「量をやる」こと自体は間違いではないんです。
すべてのことは、行動しなければ始まらないですから。

問題はそのあとで、

量さえこなせば自然に集約されて、質に転換される

というのは、幻想でしかない、ということです。


編集者として学んだ「量の限界」

私は新卒で出版社に就職し、編集部に配属されました。
やったるぜ! と意気込んではいたものの、右も左もわからないまま、先輩の背中を見て覚える日々。

その会社では(似たようなことをやっている会社は多いのですが)、とにかく発行点数を増やすことが至上命題でした。「つくる」が正義だったので、不慣れななかで、がむしゃらに働きました。

企画書を書き、著者に連絡を取り、執筆の依頼をし、原稿を編集し、入稿・校了までもっていく——。それが一連の流れです。

当然すべての業務に締切が決まっているので、残業しようが徹夜しようが、一冊一冊をどうにかして仕上げていきます。とにかく無心で、本を量産し続けました。


気づいたときには「空っぽな本」ばかり

その結果、どうなったかというと。

つくった本が売れなかったんですよ。
一生懸命つくっても、書店の棚では動かないこと山の如し。

これだけやったのに、なんで?

努力が成果につながらない。

そんな焦りから、これまでの行動を振り返ってみました。そこでやっと、形になっただけの「中身が空っぽな本」ばかりつくっていたことに気づきました。

いいかえれば、当時の私は「ただ編集の仕事をこなす人」だったんですね。
冷静に、どうしたら良かったのかを考えてみると、次のようなことが見えてきました。

  • 企画の段階で、もっと読者のニーズを掘り下げていたはず

  • 誌面の構成も、読みやすさや共感軸をもっと意識していたはず

  • 原稿にも、売れるための磨きをかけられたはず

  • 書店で読者が手に取る瞬間をイメージして、ジャケ買いさせる仕掛けを盛り込んだはず

一冊をつくる過程で、たくさんの「売れない理由」が起こっていました。
このときは猛省しました。


気づきがなければ「質」になることはない

もちろん、量をこなしたこと自体は無駄ではなかったと思います。
数をこなしたからこそ、後になって「あれがダメだった」と気づけた。

量をこなす過程で「気づき」がなければ、絶対に質にはならないと、思い知らされました。

そこからようやく、編集者として本当に必要なスキルが見えてきました。

  • 著者との関係づくり

  • 企画力

  • マーケティング

  • プロモーション

  • 「読者視点」

全部、ただ本をつくるだけでは身につかなかったことばかりです。

それらは「誰かに教わる」ものではなく「自分で気づいて、自分の頭で問いを立てていく」中でしか身につかないことでもありました。

それから「量さえやればやがて質になる」とは思わなくなりました。
ただし、「意味のある量」には、ちゃんと価値があると思っています。

  • ただやるだけじゃなく、考えながらやる

  • 自分に聞きながらやる

  • 悩みながらでも、自分なりの答えを探し続ける

そうして初めて、「量」は「質」に近づいていくんじゃないでしょうか。


おわりに

めちゃくちゃ努力しているはずなのに、結果が思うように出ない。
がむしゃらに手を動かしているのに、なぜか空回りしているように感じる。
そんな経験、誰しも一度はあるのではないでしょうか。

「このままでいいのか?」という不安や、「努力しているのに報われない」という焦り。でも、そこで立ち止まって考えることこそが、実はすごく大切なプロセスなんだと思います。

量をこなすこと自体は決して悪いことではないし、むしろ最初の一歩としては必要不可欠です。でも、ただやみくもに繰り返すだけでは、同じところをぐるぐる回ってしまうこともあります。

だからこそ、一度立ち止まって、「今やっていることにはどんな意味があるのか?」と問い直してみることが、次のステップにつながるきっかけになるはずです。

たくさんの試行錯誤を繰り返しながら、「やみくもに動くこと」と「意味のある行動」の違いに気づいたからこそ、少しずつ前に進めるようになったのだと思います。

もしあなたがもがいている最中なら、焦らなくても大丈夫です。
大切なのは、自分の努力を信じつつ、必要に応じて見直し、問い直すこと。
その姿勢こそが、やがて「質」につながっていくはずです。

もし今回のお話がそのような気づきの一助になれたなら、うれしいです。

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